定年退食

高齢者の人口比が肥大化し食糧不足に陥った近未来で、人類はどのように生き延びていくのか。その手段として、ある一定年齢以上の高齢者の生活を国で保障しないという政策が施行される。老人切り捨ての社会。それも一つの道なのか。

考察

将来の行き詰まりが、これも藤本流の見事な手法で描かれた一作だ。

技術だけは進歩し、物質的な豊かさには恵まれた社会であるが、深刻な問題となっているのが、世の中の高齢化であるというストーリー。生産人口に対する扶養老人の数が増えすぎ、遂に政府は、一定以上の年齢の高齢者の保障を一切うち切るという「定員法」を定めた。

例えば、現在の日本とを考えてみる。特にお年寄りは大切に、という考えが強い日本。しかし、このまま高齢化が進めば、生産人口で全人口を養えない状態になるだろうことは明白であろう。そうなった場合、人類はどういう生きる道を選択するだろうか、と考えたとき、一番合理的なやり方が、非生産者の切り捨てである。人道的ではない策のようでもあるが、では、他に道はあるのか、と考えたとき、食料生産は年々減少する一方なのに対し、人口は増え、その大半を非生産者が占めることを考えれば、それ以外に妥当な回答が見つからないのも事実である。

高齢者がいたわられる社会から、一転して、高齢者が蔑ろにされる時代の予兆が、今から感じられはしないか。そうなったとき、老人はどんな反応を示し、どういう扱われ方をするか?その一例が、ベンチに座る二人の老人を退かしてそこに座る若者たちの姿である。

老人の社会保障の社会全体における意味を問うと共に、社会の発展のためにかつての功労者の席を奪うことの是非も絡み、複雑な問題提起がこの物語にはあるように思う。それにしても、現在の閑散としはじめている世の中と重なって、妙なリアリティがある話だ。


収録

2000年9月現在

[ 代表タイトル一覧(50音順) | 全作品一覧(年代別) | TOP PAGE ]