ノスタル爺

主人公、浦島太吉は既に戦死したものと思われていたが、終戦後も三十年間、孤島のジャングルにこもっていた。話は太吉が三十年ぶりに故郷へ帰ってきたところから始まる。そこは既にダムの水の底となっていた。ところが、水没しているはずの故郷の姿が、昔そのままに目の前に広がる。夢なのか、気が狂ったか、とにかく、主人公、太吉は過去に失ったものの埋め合わせをすべく、その過去の世界へ溺れていく。

考察

もしもこうなったらどうなる、という藤子F色の出ている作品の一つである。 主人公、太吉は過去に故郷で後悔すべきことをやってしまった。 今、まさにその時代へ遡り、その埋め合わせができる状態に立たされた。 さて、どのような形で過去の汚点に修正を加えるか?その方法として、太吉は気ぶりの爺として牢にこもり、 その成り行きを見守ることを選ぶのだが、それで汚点が解消されたのかといえば、いささか疑問が残る。

太吉の生い立ちから見ていく。太吉は浦島家の跡取りとしての立場に立たされていた。 その太吉が兵隊として戦場へ向かうことになる。その前に、嫁をとることを強要される。 太吉には、幼いころから親しい里子といういいなづけがいた。当然この場合、里子が太吉の嫁として迎えられる。

ところが、太吉の本心は、戦場に行って戻ってこれる保証のない自分の嫁になったところで、 里子を苦しめるだけだと考える。太吉本人は、結婚を拒否するが、家族や周りに押される形で二人は成婚。 その後、太吉はすぐに戦場へ向かう。そして三十年、太吉が戻ってきたときには、既に里子は亡くなっていた。

ここで、太吉は、あのとき結婚をがんとして断っていれば、里子に辛い思いをさせなくてすんだのではないか、 という後悔の念に駆られているわけだが、再び過去の故郷へ帰ってきた太吉は、 積極的に結婚の反対や妨害をするでもなく、ただ、牢に閉じこめられるという方法をとる。 ここで、キーワードとなるのは、太吉が牢に閉じこめられるときにいったセリフ、 「一度失ったものを、二度と失いたくない」、この意味するところは、 里子のその後を最後まで見守っていこうという決意なのか、 失ったものをここで取り戻そうという執念なのか。 いずれにしろ里子自身には関係のない太吉の自己満足だが、 牢に閉じこめられ、それ以後の一生を送るという苦痛を買って出たという行動は、 里子に対する罪の意識の現れでもあり、そういう形でしか償えなかったという状況もあっただろう。

ところで、気ぶりの爺は、過去、幼い日の太吉自身も目にしている。 つまり、太吉は気ぶりの爺として再びそこへ現れることは必然であったということになる。 太吉自身、そこへ来た瞬間、それを悟ったのかもしれない。 あの気ぶりは自分だったのだと。そして、気ぶりの爺は里子の後を追うようにして亡くなったと、 冒頭に伏線が入っているあたりは、やはり気ぶりの爺が太吉で、 里子を最後まで見守るために牢に入ったのだ、とも解釈できる。

さらにもうひとつ解釈を付け加えるなら、 里子と自分の子供を残してこなかったことに対する後悔の念があるのだとすれば、 最後の太吉(爺)の叫びは、その思いをできることならここで遂げて欲しいという願いだったのかもしれない。


収録

2000年9月現在

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