みどりの守り神

沖縄へ向けて飛行中の飛行機が墜落した。墜落したところは一面植物に覆われた密林の中。主人公ミドリは、家族旅行のためにその飛行機に乗り合わせていたが、何故か生き残った。そして同じくその飛行機に乗り合わせていた坂口。彼らは助けを求めて森を抜けようと試みる。しかし、どこまで行っても森は続き、人がいないどころか鳥さえ飛んでいないことに疑問を感じ始める。

考察

主人公、ミドリの乗った飛行機が原因不明で墜落し、ミドリは意識を失う。それからどれくらい経ったのか、気付けば、そこは密林のまっただ中。同じ飛行機に乗り合わせていた坂口五郎という学生に、その墜落事故で生き残ったのは、ミドリと五郎のただ二人だと聞かされる。とにかく、その密林を抜けて助けを求めるために、二人はその山をおりる。ところが、行けども行けども密林は続き、それでも何とか人家を発見するが、人気は全くない。それどころか、動物一匹見かけないのだ。これは、世界的な核戦争が起こり、全ての動物は中性子爆弾によって死滅したのではないか、と坂口はいう。

ここで、山を一日中歩き回って、ミドリが足の爪を割ってしまうのだが、その翌日、すっかり直っていた。そして、ミドリのまわりにはコケのようなものが群がっていた。奇跡はここからはじまる。 いかだで川を下る二人。川を下っていけば、いずれ海にそそぐ、その前に必ず人の住む町があると坂口は予想した。ところが、川幅が広がり、流れが緩やかになって、もう町が見えていいはずなのに、その様子が全くない。密林が延々と続くばかり。奇しくも、二人の乗ったいかだは座礁した船に衝突、泳げない二人はあえなく溺れてしまう。

ここでも奇跡が起こる。溺れたはずの二人が、気が付くと、木のツルに絡まって水から引き上げられていた。 やっとのことで陸に上がる二人。しばらく歩うちに、ミドリが東京都心にあるはずのビルを発見する。なんと、そこはジャングルに姿を変えた東京だったのだ。建物の中で発見した新聞に、全ての事実が記されていた。人類を始め、全ての動物を全滅させたのは、なんと、兵器として開発されていた細菌だったのだ。その細菌がなにかの理由で外部へ漏れ、それは恐るべき勢いで拡がったというのだ。

その状況に絶望し、坂口は錯乱、ミドリも自殺を試みる。

ところが、また奇跡が起こる。自殺をしたはずのミドリが深い眠りから覚める。と、そこには白河貴志と名乗る男がいた。彼はテレビのアシスタントディレクター(OVAでは大学の山岳部になっている)で、登山中雪崩に巻き込まれたが、みどりのカビに助けられたという。みどりのカビ、そう、ミドリが爪を割ったときもそれはあった。つまり、ミドリは、そのカビによって傷を癒され、そして今、命までも助けられた。そこで、動物を全滅させた恐怖の細菌は低温に弱いということ、そのため、雪深い山奥で飛行機事故にあったミドリは、何百年かたって、そのカビに生き返らされたということ、その何百年かの間に、植物が急激に進化したこと、などが明らかにされる。 その植物の急激な進化は、動物再生の為のものだという。つまり、ミドリや白河のように、低温で細菌に犯されず、比較的保存の良い動物を蘇生させるべく、動的に進化したというのだ。それは、植物が、動物の吐き出す炭酸ガスを必要としたためだ。

話中、キーとなるのは、ミドリたちに働きかける一連の植物の挙動だ。まず「みどりのカビ(コケ)」。これが、山中に埋もれていたミドリを蘇生させ、歩き続けて傷ついたミドリの足を癒し、自殺からミドリの命を救った。白河も同じく、この「みどりのカビ」に蘇生させられている。そして、おそらく坂口五郎もだ。また、川を下っていく途中、五郎とミドリは溺れてしまうが、木のツルが意識的に二人の命を救ったと思われる。

つまり、植物たちが意志を持って動物の再生を試みているのである。これは、今私たちの置かれている状況、つまり、植物を伐採し、自然破壊の限りを尽くしている人間たちが、植物再生を試みていることを思わせる。立場を逆転したらどうなるか、という、藤子流の実験漫画の特徴がここにもみられる。やや皮肉も入っているか。

ここで、植物が能動的な意志を持ったということに注目してみたい。それまでの植物、つまり、私たちの身の回りにある植物は、全く動物の都合によってその運命を左右されている。植物は、環境にこそ適応すれ、個々が自分の意志によって、外界に、特に動物に働きかけるのは、せいぜい繁殖期のサイン程度のものである。ところが、動物がほぼ絶滅し、炭酸ガスの供給者が不足してしまったその世界で、植物たちは動物のカムバックを目標に、その意志で動物を復活させるまでに進化した。つまり、植物は「動物再生」という一つの目的のもとに、その意志で能動的に動ける方向へ進化したことになる。

ちなみに、現実はどうか?意志を持っているのは動物である人間だ。つまり、人間が意志を持ち、こうして存在しているのは、なにか達成すべき目標があってのことではないのか? ここでは、地球規模でバランスを保つよう、全体的な流れがつくられているように思われる。植物だけが繁栄することはなく、しかし、動物だけが繁栄することもない、両立してこそ、全体のバランスが保たれる。そのように意志が働いているのではないか、という概念が見いだせるかと思う。ここでいう意志は、植物のものでも、そして動物のものでもない、それら全体としての意志である。そして、そこに生じた不均衡を整えている、そうして地球は成り立っているのだ、と考えることもできる。 今、特に人類の科学の発達が目覚ましい。その裏で、人類による大規模な森林破壊が行われているのもまた事実だ。今、緑を再生することが出来るのは、その科学力を持った人類しかいない。問題は、その植物再生の「意志」がどこまで強くなれるか‥‥なのだが。


収録

2000年11月現在

映像


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