あのバカは荒野をめざす
乞食生活を送る主人公。ある年の暮れ、彼は何故か過去に戻り若い頃の自分に出会う。そして今の乞食生活の原因となったその日に、道を改めさせようと説得する。主人公はこの出来事を記憶しており、別な人生修正を試みるが。
考察
誰でも一度は人生の何処で道を間違えたのか、と思うものである。これは、何らかの挫折を味わう度に思うことだろう。あのときああしていれば、或いは、あのときあんなことをしなければ、という後悔の念。これを率直に物語にした作品の一つ。
主人公は、かつて若かかりし頃の自分に会いに来た老人の記憶があり、それが未来の自分、つまり今現在の自分だという確信を持っている。そして、その自分が、過去に於いて若い自分の道を正そうと説得しようとして失敗することも知っている。最初は、何とか若い自分にいうことを聞かせて人生を修正したい、という強い願望が感じられる。
若い頃の自分の事情、それは、地位のある立場である自分がある女性に惹かれ、その地位を捨てて女性にかけようというものだった。しかし、年老いた自分にとって、その結末は決して幸せなものではなかった。女性への愛など、月日によって色あせ、情熱も冷め、残るのは「荒野」だけだということを知っている。だから、何としても若い自分の思うとおりにさせてはならない。しかし、結局、かつてのように説得には失敗する。若い頃の自分の情熱には勝てなかった、というところか。
しかし、失敗しても、主人公は落胆しているわけではなさそうである。むしろ、若い頃の自分の姿に感銘を受けている様子で描かれている。
この物語全体を通して、どんな主張が込められているか、と考えてみる。人生の何処かで誤った選択をしたとする。しかし、それはその時の自分にとっては絶対である場合もあるわけだ。後で思い返して、別の道もあったろう、と思うことは、本当は意味がないことなのかもしれない、ということ。誤り、と思われる人生も、自分にとっては人生には変わりはなく、その歩みが自分であるともいえる。
人は、ある失敗に遭遇したとき、何故あのときああしていなかったのか(別の選択の可能性)、とか、何故これが自分なのか(他人の可能性)などを思い浮かべるものである。よりによって、この選択を自分がしてしまったことに対する後悔の念は尽きない。しかし、それが自分である、ということもできる。
模範的な、人と同じ道を歩むばかりでなく、自分のありのままで生きて来たなら、それでいいのではないか。結果を悔やむよりは、これからも自分らしく信念を持って生きるべきではないか、というメッセージも伺える。
収録
- 小学館 小学館文庫 異色短編集3
- 小学館 小学館叢書 異色短編集3
- 小学館 ゴールデンコミックス 異色短編集5 (絶版)
- 小学館 藤子・F・不二雄SF短編PERFECT版4
- 中央公論社 藤子不二雄ランド 異色SF短篇2 (絶版)
- 中央公論社 愛蔵版SF全短篇3 「征地球論」 (絶版)
2000年11月現在
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