アン子 大いに怒る(赤毛のアン子 改題)

魔女の血を引くアン子。その不思議な力に自分では気づいていない。ある日、アン子の父親が、友人の宇祖田にある儲け話をもちかけられ、うまうまとそれにのってしまう。それは、高級紅茶を輸入して一儲けという話だが、肝心の紅茶は真っ赤な偽物だった。家を担保にしてつくった輸入資金をそっくりだまし取られたのだ。落ち込むアン子と父親。アン子の怒りはこみ上げ、やがて頂点に達する。

考察

「エスパー魔美」のはしりともいえる作品。母親は既に亡くなっている設定だが、父親は童画家で、アン子が「デリケート」を「バリケード」といったり、「パートタイム」を「パントマイム」といったりするすっ飛んだあたりは、魔美を思わせる。

この話は、アン子が聞こえるはずのない子犬の声をなぜか聞き取って、その居場所をつきとめてしまうところから始まる。その犬は父親が拾ってきたものだが、その父親が、犬をかくまっている物置きとアン子の部屋が家の真反対にあるということを指摘するところから、アン子は常人にはない能力を持っているのではないか、という振りを与えている。ここで父親は「母親に似てきた」といっているが、ここでは母親が単に勘の鋭い女性だったのか、それとも特殊な何かがあるのか、というあたりはぼかされているようだ。

その後も、台所でこげているナベのにおいを自室で匂っていたり、雨が降り始めて洗濯物を取り込まなければならないときに電話がかかってきて、はやく取り込まなければという気持ちを強くしていると、なぜか独りでに洗濯物が取り込まれていたり、という事件が発生する。

そんな裏で、別の事件も進行する。父親が宇祖田氏から持ちかけられた紅茶(「ルビーのしたたり」)のビジネスの話を真面目に考え出すのであった。というのも、早くから母親をなくし、父親である自分がしっかりしていないために、アン子が子供らしくなくしっかりしていることに責任を感じているから。このことが、後の大事件の火種になってくる。

その夜、アン子は、中世のヨーロッパらしい場所で、張り付けにされて火あぶりにあうという夢を見る。勘の良い読者なら、これがかつてヨーロッパで行われていた“魔女狩り”を想起させるものであることは察することができるだろう。ちなみに、翌朝から登場する洋二という人物は、後の「エスパー魔美」の高畑氏になる人物だと思われる。この時点で、エスパー魔美の骨格はおよそできていた感じだ。

その朝も、一つ事件がある。目覚し時計を探すがどこにも見つからず、目覚まし目覚ましと“念じながら”探していると、いつの間にかアン子の手にそれがあった。父親は「あわてもの」というが、これがあわてものによるものか、別の何かによるものかといえば、そろそろ後者の方に読者の思考を傾けさせるダメ押しの事件という見方もできる。昼休みに、アン子は洋二氏に、一連の不思議な出来事を打ち明けて、これはどういうことかと相談している。洋二氏は、ここで具体的に「超能力」という言葉を出してくる。ただ、これはあまりに突飛なので、ボールを移動できるかどうかという実験をさせてみて、やはり失敗したということで、超能力ではないのかな、という一歩引く場面も入れている。おそらくこれは、超能力は本当にその必要に迫られた場面に発揮されるものであることを示す実験にもなっているわけだが、それに加えて、ここでそのまま超能力を披露してしまうと、ストーリー的に安っぽくなる。原作者がそれを狙ったかどうかは定かでないが、ここで一歩引くというのは、結果的に良い効果を生んでいると思う。

アン子が学校へ行っている間に、父親は紅茶の話で取引をしてしまう。当然これは詐欺である。人の良いアン子の父親はうまうまとそれにひかかってしまい、二千万円を騙し取られてしまう。そのお金は、アン子の家を担保にして借り出したお金だという。ここからである。アン子は、その家が想い出深い家で、それを詐欺によって追い出されてしまうことに非常に大きな怒りを覚える。そして我を忘れ、怒り心頭、爆発したところで、その騙し取られたはずの二千万円が、なんと、詐欺師の車からアン子の家に戻ってくるのだった。

ここで、初めて父親が、アン子の母親がギリシアの魔女の血筋であることを打ち明かす。これで今までの事件がはっきりと一つにつながることになる。アン子には魔法を使う能力が秘められていて、それが、犬の鳴き声を聞き取ったり、洗濯物を取り込んだり、目覚し時計を呼び寄せたりしたのだな、と納得できる。そして、もう少し洞察するなら、その能力は、本当にその必要に迫られたときに発揮されるだろうということもわかるだろう。ここまで考えられたら、最後の落ちは、アン子は、本当にその必要に迫られていたのだな、という面白さ(おかしさ)が理解できる。


収録

2000年9月現在

映像


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