あいつのタイムマシン
タイムマシンの実現に生涯をかけている男がいる。彼はなんとかしてタイムマシンを完成させようと試行錯誤を重ねるがその甲斐なく失敗ばかり。ところが、ある晩、既にタイムマシンを完成させている未来の自分がやってきて、今の自分にタイムマシンの秘密を教えてくれるという。そう信じれば本当にそうなるというが。
考察
最初は理屈でタイムマシンを完成させようと意気込む鉄夫。異常なまでにタイムマシンにのめり込んでいるのには、実は裏がある。鉄夫の友人である正夫(こちらの方が、どちらかというと読者よりの登場人物)の奥さんのみっちゃんは、鉄夫のいとこではあるが、その鉄夫は、密かにみっちゃんに恋心を抱いていることがわかる。まず、そのへんを少し見てみることにしよう。
まず、しょっぱなで、正夫がうちへ帰ろうとする際、鉄夫は、正夫の奥さんのことを「みっちゃん」と呼んだ後、「いや、おくさん元気か?」と呼び直している。ここが、まず第一の伏線。次に、正夫が仕事の漫画のネタで悩んでいる場面でのやりとりの中に、かつて、鉄夫が、正夫の奥さん(みっちゃん)を好きだったのでは、という仄めかしが入っている。しかも、正夫の奥さん(みっちゃん)も、まんざらではない態度である。このへんで気づく人は気づくだろう。だめ押しに、正夫が「T・Mができたら、それで何をするつもりなんだ」と問いかけているのに対し、鉄夫は、無言ので意味深な表情を返している。
つまり、鉄夫は、恋を勝ち取るために、タイムマシンに没頭しているのである。かつて、その性格の内気さ故に、好きだったみっちゃんを、友人の正夫に先を越して結婚されてしまった。そこで思い立ったのが、かつて(小学五年生とある)正夫ともその夢を共にしたという「タイムマシン」である。過去に戻って、意中のみっちゃんを我が手にする。いかにも内気な鉄夫らしい発想だ。
ちょっと話の流れをわかりやすくするためか、正夫と編集者との会話に、ストーリーの要素が絡ませてある。最初は、タイムマシンネタを差し出した正夫に対して、編集者は、もっとリアリティが欲しいという。読者が納得するもっともらしさ、つまり、タイムマシンの理屈を、もっとしっかりしてみてはどうか、という流れである。これは、最初の鉄夫が目指していたものだ。
その後、物理学的な仮説である「タキオン」を持ち出した正夫の対し、編集者は、理屈より、状況証拠を並べてもっともらしくしてみてはどうか、と提案している。昔からタイムトリッパーの記録は多くある。それらで読者を信じさせる、という方向だ。編集者は、これを、意志の力で起こす、とまでいっている。
最終的に、鉄夫は、信じること、つまり、意志の力でタイムスリップを実現させようとする。信じること、強く信じれば、それは現実になる。将来、自分はタイムマシンを発明して、その秘密を今の自分に教えにやってくる、という。そして、今の自分がその構造を知るということは、将来の自分も、当然それを知っていることになる。この「ニワトリとタマゴ」の関係のような循環そのものを、タイムマシン発明の理屈にしてしまったわけだ。
この作品は、自分の認識こそが自分の真実といった唯我論的哲学と、タイムマシン発明の発想が絶妙に絡み合っって一つのストーリーとなっている。また、鉄夫の恋の方法論、というのも、また斬新だ。まさに「念ずれば花開く」。
収録
- 小学館 藤子・F・不二雄SF短編PERFECT版6
- 中央公論社 中公文庫 SF短篇集3 (絶版)
- 中央公論社 愛蔵版SF全短篇3 「征地球論」 (絶版)
- 双葉社 アクションコミックス 超兵器ガ壱號 (絶版)
2001年1月現在
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